祝・DCアンプシリーズ30周年 記念プロジェクト
未知との遭遇 ELECTRON TUBE
No−166真空管CDラインアンプ&No−170ハイブリッドCDラインアンプ

祝・DCアンプシリーズ30周年


30年前、とはもはや遠い記憶だが、こういう分野の雑誌があることにようよう目覚めた頃、ふと本屋で「無線と実験」誌を手にしたことがものごとの始まりだった。今思えば、それが1973年11月号で、そこにはシリーズNo−3の「50W+50W 高出力A級DCパワーアンプの設計と製作」が載っていたのである。純でいたいけな少年(^^;は、そのラジカルで攻撃的でありながら理に適って自信に満ち溢れたお言葉に絡めとられざること難く、さりとて長じても離れがたくして御されるままに早30年・・・。この間K先生に導かれるまま気の向くまま、DCアンプの模倣品をこしらえては、込められた理論を学ぶ楽しみ、また手ずから作る楽しみ、そして音楽を聴く楽しみ、これを愛別離怨憎会渦巻くこの世のストレス解消の糧とし、人生を豊かにする手立てとしてここまで生きてきたのであった。 < ちと大袈裟(^^;

もとより時空を超えた音楽の再現を目標とされるK先生が、30年間170有余回にわたって追求・開拓されてきた分野は遠大であるから、私Kontonが追体験できたものはそのほんの一部に過ぎないのは勿論であるのだけれども、就中、生録と真空管の分野はkontonにとって未だ全く未開の領域であることを告白せねばならないのである。 < おいおい(^^;

まず、生録だが、「DC録音をやった人としない人では人生に対する考え方が違ってくる」と言われるほどのDC録音であるので、いずれやらねば、との想いはあるのだが、これを本当にやるとなるとかなりのネットワークとフットワークが必要ではないかしらん、と思うとなかなか手がつかないのである。しかも、かようグズグズしている間にも欠くべからざるアナログテープデッキは恐竜の如くに絶滅してしまっており、本当の意味での追体験はもはや適わぬ夢に近い。が、DCマイクとWM−D6(残念ながらC)については、WM−D6オリジナル用ヘッドを確保してあるなど、とりあえず可能性は確保してあるので、これらはいつか気が向いたときには作る、かもしれない。 < 勝手にせい(−−)

そして、本題の真空管である。

「真空管ではDCアンプは作れない」。はずであったDCアンプの世界にくだんの真空管が登場したのは1990年7月号のNo−117「真空管DCプリアンプの設計と製作」であった。なんと、早くも13年も前の出来事になってしまうのだ。が、それは、アンプ出力と75V電源間から出力信号を取り出すという実に奇想天外、奇妙奇天烈なもので、しかも電源は乾電池と、おいおい、ちょっとまってね、と、引いてしまいそうに強烈な構成だったのである。が、それは音楽再現能力という点での真空管の可能性が余程のものであるということが現象発露したものだったのだ。

すなわち、真空管のみでDCアンプを実現してしまったNo−117は、あえてB級無帰還とすることにより常識を覆して半導体アンプの可能性を天下に示したシリーズNo−1の“B級PP無帰還DCパワーアンプ”と同様、テーゼを示してその後のDCアンプシリーズの未来を告げるという文字通り画期的な役割を担うものだったのである。案の定、これを機にDCアンプシリーズは全くの真空管時代に突入してしまったのである。
それは今も継続中の現在進行形だ。確かに大電流型MOSの導入など半導体DCアンプにもトピックがないことはない。のだが、それはまぁ・・・余禄に過ぎない。 < おいおい、言い切って大丈夫か(^^;

という判官びいきな思いもあって、kontonはこの13年間もやはり半導体式DCアンプばかりを追ってきた。真空管でDCパワーアンプを構成するために生み出された完全対称形式が半導体にも応用され、半導体DCアンプの世界も大きく飛躍したという事情もある。真空管DCアンプの安定度にはイマイチ不安が感じられた、というのも事実である。
が、最も根本的な要因は、人間やはり未知の分野に向かう時には躊躇するものなのですよ(^^; < 普遍化するな(−−)

かよう優柔不断に馬齢を重ねていたわけだが、この間にもK先生の独創的かつ意欲的な取組は止まることを知らず、この13年間に真空管DCアンプの回路は究極なまでに美しく洗練され、しかもATR、AOCで半導体DCアンプ以上の安定度を有するという非常に完成度の高い、とんでもなく凄いものになってしまっているではないか。

聞こえぬ声がまた聞こえてきた。機は熟した。作るにしかず・・・

・・・そうか、そうか。折りしも今年はDCアンプシリーズ30周年。でもある。これを勝手に記念して、真空管という私にとっての「未知との遭遇」をいよいよ果たそうかしらん(^^)  

前口上長すぎ(−−)



未知との遭遇は何で果たすべきか? は、実は決まっているのである。ありがたいことに「半導体アンプばかり作っている君に一番取っつきやすい真空管アンプのはず。これで真空管DCアンプの可能性を確認したまえ・・・」とNo−170で指示されているのだ。だから当然No−170「ハイブリッドMCプリアンプ、CDラインアンプ」で未知なる真空管との遭遇を果たす。

初心者としてはまずCDラインアンプで真空管の世界に触れてみよう。ハイゲインのMCプリは経験を積んでからだ。さらに、経験を重ねる上でも今ひとつ、No−166「真空管DCプリアンプ」の真空管CDラインアンプも拵えてみようではないか。こうなれば真空管にもっと遭遇してみたい。ありがたいことにそれらの電源は共通仕様となっているから、電源は1つ作れば良いのだ。これで、真空管とハイブリッドに一挙に遭遇だ。(^^)

*裏話
本当のことを言えば、半年前にNo−147(風)を本来のハイブリッドにすべく真空管に手を出してみたのであった。が、いろいろ手を変え品を変え挑んでみたもののことごとく失敗(^^;。6112には完全に嫌われた。No−172を読むとむべなるかな。ということのようではあるが、初体験のほろ苦い想いをバネに苦節半年、今度は想いを遂げることが出来ますでしょ〜か(^^;

*念のため
真空管&ハイブリッドプリアンプの電源が共用できるといっても、1台の電源で真空管&ハイブリッドプリの自由な同時使用が可能という訳ではない。ヒーターアース、ヒーターバイアスの問題もあり、B±電圧の低下の問題もあるので、自分で責任をとる方以外は、電源を共用するといっても、アンプの方はあくまで差し替えて独立使用とするのが吉。



取りあえず真空管なるものを集めないことにはなんともならない。ので、人に尋ねてみたり、ネットでサーチしてみたりして真空管小売り流通の状況を探り、そこで新たに得た知識で必要な真空管を取り寄せはじめる。

先ずはこれだ。ひかえぃぃ!! ははぁぁぁ m(__)m  と泣く子も黙るウエスタンエレクトリック   かどうかは知らない(^^; 

まぁ、極めて高名で高価な300Bぐらいの名前は知っていたウエスタンエレクトリックであるが、ウェスタンなんて一部マニアがありがたがっているだけだろうなんて斜に構えて見ていたから、自分は一生触ることはあるまいと思っていた。

のであるが、触ることになってしまった(^^;

ほうほう(。。)、これがELECTRON TUBE、真空管というものですか・・・

なんていかにも初めてのようなふりをしても白々しいか(^^; < 遠い昔こういうのがたくさん入ったラジオも聴きテレビを見た少年のなれの果て

言うまでもなくウエスタンエレクトリックの整流管412A

これがK式DCアンプシリーズで全面的に採用されることになったのは1998年。

97年3月のNo−145では1S2711とWE412Aが比較試聴され、「412Aは中音にスペクトルが集中してややナローレンジな音になる。・・・1S2711は高分解能かつワイドレンジであり、DCアンプの目標にぴったりの音である。・・・」とされたのだが、翌98年3月号のNo−149“ハイブリッドパワーアンプ”でドライブ段用の+133V電源に1S2711(MB−1F)に変わって412Aが採用され、「たったこれだけのことで、信じられないほどアンプの音楽表現力が大きくなった」との逆転評価となり、以降412Aの全面採用となって今に至っている。

その評価逆転の顛末については、同98年6月号のNo−150の冒頭に「ダイオードと整流管」の項目が立てられ説明されている。要するにエージング効果だ。「・・・時間がたつに従って徐々にワイドレンジになっていく。最も印象的なのは音の立体感である。ソロとコーラスの音像の違いである。空間に音が広がる様子に明確な違いが生じ、しかも音の前後感が強く出る。」

そうか。そういうことであれば、高価ではあるがやむを得ない。入手するしかあるまい。だいたい以前に使用されていたダイオードの1S2711やMB−1Fはもはや全く入手不能なのだ。し、ダイオード使用の場合にディレィティングのために必要なタイマーリレーも不要になるのだから。

というわけで、遂に我が家にやってきたウェスタン。案外小さいものなんだなぁ(。。)と手にとって眺めながら、別に超高価な300Bを入手した訳ではないのに、う〜ん、ちょっとリッチな気分(^^;




が、リッチなのは気分だけなので、次はGEのJAN−5670Wだ。

真空管プリを既に製作されている皆さんのHPを見ていたら、とおるさんのHPでWE396Aの同等管にこの5670というものがあり、しかもそれが大変お安い値段で入手できるものだということが分かったのである。

いずれWE396Aにしたくなるのだから5670を入手しても無駄になるだけ・・・というPH7さんのHPでのご意見も頷けるものなのだが・・・、いきましょう、取りあえずこれで。なにせ396A1本分で10本から20本も買えてしまうのだ。まさしく庶民の味方。(^^)

が、K先生は396Aの代替球としてこれを取り上げておられないから、音的にも396Aと同等かどうかは分からない。まぁ、劣る可能性の方が強いのかも、だ。(^^;

案外、特性的に問題があるのかも知れない。ネットであれこれ検索してみると、WE396Aも5670Wも双3極管ではあるが、別に半導体でいうデュアルFETやデュアルTRに相当するものではないので、内部に入った2つの3極管ユニットの特性はかなりばらついているものらしいのだ。TetsuさんのHPによれば昔2つのユニットの揃い具合を選別して販売されていたこともあるという話しだし。

そうなのか。初段差動アンプと終段SEPPに起用するのだから、本来特性が良く揃ったものであるべきなのだが、ないものはしょうがない。ばらついていても使う以外にないのだが、396Aよりも5670Wの方がばらつきが大きいということかも知れない。

この辺知るところではないが、逆に、双方ともばらつきが大きいということであれば、安いが故に多数購入できる5670Wの方が選別が容易だから有利であるとも言える訳で・・・。まぁ、真相は不明だが、先ずはJAN−5670Wで行ってみよう。そのためにAOCという強力な救世主が登場しているのであるし。

と思って発注したところ、あれまぁ(..)、こんなに小さいものなの。届いた5670Wはこんなものか?と思えるほど小さいとても可愛いヤツだった。考えてみればミニチュア管というぐらいだからこんなものなんだよなぁ・・・。我が頭には真空管というと出力管のあのでっかいイメージがこびり付いていた、ということか・・・(^^;




ミニチュア管で驚いていてはいかんでしょうに。
と言っているかが如きのサブミニチュア管JAN−5703WB。レイセオン製だ。

これは本当に小さい(‥)。サブミニチュア管というこんな小さな真空管があったことは、K先生がDCアンプシリーズで取り上げられるまでさすがに一切知らなかった。のだが、これで立派な3極管なのだ。

3極管だから3本の端子が必要で、さらにヒータ−用に2本の端子が必要だから、全部で5本の足が出ている訳だ。その姿はまるでヤリ烏賊のようだが、この足の生え方は2SC984の足の生え方によく似ている。もしかするといにしえのトランジスタの足が異様に長いひげのようなのは、サブミニチュア管に倣ったものだったのかもしれないですねぇ。

DCアンプシリーズにサブミニチュア管が登場したのは97年9月号のNo−147“UHC−MOS−FETパワーアンプ”においてであったが、それはシルバニアの6112であった。以来、6111、5702、5703というサブミニチュア管が採用されてきた。K先生によれば、サブミニチュア管はエレクトロニクス界が真空管から半導体に移行する過渡期に生まれた“最後の真空管”で、軍事通信用やミサイル誘導用に作られた優秀な真空管ということである。また、使用目的からして低いプレート電圧で動作するので、耐圧の低い半導体と共存するに相応しいとのこと。

ふ〜む。そうなのか。こりゃぁ軍事物資の横流しか、はたまた余り物ということか。縁あってやってきたサブミニチュア管、せいぜいこの世の平和のために使ってやらねばなるまい。

さて、真空管アンプになかなか踏み出せない理由の1つには高電圧を扱わなければならない、という点もあるのである。はっきり言って感電したくないのだ。小学生のころから何故かエレクトロニクスに興味だけはあって、なんでラジオから音が出るのかとか、何故テレビが映るのかとかに興味をもってその裏蓋を開けて覗いたりしていたいたいけな少年は、感電のショックも身をもって体得したのである(爆)。今となっては注意すれば良いだけの話しなのだが、用がなければ、いや、用があっても100Vを越える高圧にはあまり近づきたくはない(^^;。その意味で半導体アンプはとてもありがたいものであるし、低いプレート電圧で動作するサブミニチュア管も嬉しいものなのである。が、今回目指すものはプラスマイナスを加えれば240V〜250Vに達してしまう。
ま、決して安全ではないのだが、取り扱い注意でやってみることにしよう(^^;



先ずは電源を用意しないことには始まらない。ので、電源部を拵える。

のだが、CDラインアンプを単体動作させようという場合に、ハイブリッドプリでやや問題となるのはトランスだ。

最近の真空管&ハイブリッドプリは共通仕様のトランスを使用する。大変に便利だ。その指定トランスをテクニカルサンヨーさんから入手するのだから何も問題などないはずなのだが、このトランスを使っていると思われるK先生の作例もアンプによって毎度その整流後B電圧の表示が異なっていることに表れているように、整流管の内部インピーダンスが高いために負荷電流によってB電圧が変動する点がやや問題を含んでいるのである。

真空管プリでもハイブリッドプリでもCDラインアンプ単体で動作させた場合は消費電流が少なくなる。そうするとB電圧はK先生の製作例にある電圧以上の高さになることが予想されるのである。そうなるとハイブリッドプリの場合、それでなくとも耐圧120V一杯で働いている初段定電流回路の2SD756とカスコードアンプの2SC1775Aの耐圧オーバーが心配になってくるのだ。

その意味でB電圧用としては100Vの他にハイブリッドプリ用として85V程度の端子を設けてもらうと、これを使ってダイオード整流も試せるし良いのではないかなぁ・・・。そういう仕様で特注しようかなぁ・・・、とは思ったのだが、まぁ、それがなくともなんとかなることはなる、ということでただハイブリッドプリ用ということでトランスを発注したのだった。その結果、予想通りTS−201というトランスが納品されたのだが、何とそのトランスには「安全対策です」ということで既にB電圧用の85V端子が追加されていたのであった。あらまぁ〜と、びっくりするやら嬉しくなるやら。(^^)

NAOKさんから、テクニカルでハイブリッドプリを試作した際にトランジスタの耐圧不足で事故が続発した由教えていただいたが、やはり、という感じだ。仮に100V端子しかなくて耐圧を超えそうなB電圧になった場合も、回路をちょっと工夫すれば対応可能なのだが、オリジナルどおりの回路で作る場合は、この85V端子を使うのが絶対に吉だろう。ゆえに我が電源も85V端子を使ってB±電圧を得ることにしたのだった。100Vの引き出し線は余ることになるが、ハーモニカ端子で処理して、必要な時には即繋ぎ代えることが出来るようにしてある。

なお、この点はテクニカルのおばちゃんに確認した訳ではないので、現行のTS−201にはすべからく85V端子が追加されているのかどうかは分からない。ので、必要な方はそれぞれ確認のほどを。






さて、そのB±電圧用の整流回路の平滑コンデンサーであるが、指定どおりの160V 2,200uFとしている。のだが、これは真空管な方からすると極めて非常識なことであるらしい。要するに整流管を使用した整流回路にはあるまじき超高容量で、それによる大きなラッシュカレントで高価なWE412Aを壊しかねない、壊さないまでも寿命を著しく縮めかねない、ということらしいのだ。

この点は、哲さんもチョークコイルを導入して対処されているなど、真空管な皆さんにとっては非常に気になる点のようだ。果たしていかなるものか私には知識がないので取りあえずオリジナルどおりとしてあるのだが、これに関して当HPの掲示板の過去ログにM−NAOさんの貴重な書き込みがあったので、勝手ながら転載しておこう。




以前、某MLにラッシュの実測値を発表したのですが、表立って発表し
てなかったですね。ちょっと転載します(再測定で多少値が変ってま
す)。


>金田式の記事と同じ100-0-100V 0.2A定格の電源トランスと、完全
>放電した160V 1500uFを使用。WE412Aと、同等品BENDEX6754を両方
>測定しました。
>
>整流管とコンデンサーの間に10Ωを挿入し、デジタルストレージオシ
>ロでピーク電流を実測します。
>実機と近い電流条件になるように、ブリーダー抵抗7.5KΩをコンデン
>サーにつけて、30mA消費させます。
>
>まず、単純な電源投入の実測の結果は、スタートから30秒後に50mA
>が計測されました。(ちなみに規定電圧に達するのはスタートから50
>秒でした) これは、WEもBENDEXも変わりません。
>又、10Ωの両端に現れる電流リップルのピーク値は、150mA、安定後
>のピークは90mAが計測されます。

(注・実効値による電流測定では50mAですが、電流波形のピーク値は
その3倍に達します。)


>次に、一番過酷と思われる、電源OFF直後の電源再投入ですが、
>(WEは勿体無いので、BENDEXを使用) 一番ピーク電流が多かった
>のが、OFF後10秒経ってからの再投入で、500mAです。このピーク
>が一番の山で、OFF後5秒での再投入、15秒での再投入とも300mA
>でした。
>
>ちなみに、私の周りでは、パワーサーミスタとリレーを併用して、
>ピーク電流を抑える回路を使用している人がいます。
>私の場合は、リレーを使って、まずダイオードでコンデンサーをチ
>ャージして、一定時間経ってから整流管につないでいます。電源O
>FFになると即座にダイオード整流に切り替わり、再投入しても一
>定時間はダイオードから電流が供給されるようにして、整流管に負
>担をかけないようにしています。

ちなみに、測定抵抗の10Ωというのはちょっと大きすぎで、実機は
もう少し条件が悪いかもしれません。

この結果から判断すると、現状の電圧ではケミコンの2200uFは、ち
ょっと危険かも(通常使用では問題無いが、不用意な電源投入で整流
管が破損する可能性がある)、と思います。1500uF、出来れば1000uF
程度で済ませたいものです。





ふ〜む。そうなんですか。ピーク電流を押さえるために皆さん随分と工夫なさっているのですねぇ。
う〜む。困った。どうしようか。

とは思ったが、取りあえず不用意な電源投入には気を付けることにして、このまま行くことにしたのだった。 < 非情?(^^;



基盤の製作自体に特に難しい点があるわけではない。半導体アンプを製作する場合と殆ど変わらない。ただ、真空管の背が高いので、その身長以上になるサポーターを用意しておく必要があるというぐらいだろうか。

回路は全くNo−170CDラインアンプのとおりだが、入力のアッテネータの5.1KΩは我が家の環境では余りに大きすぎるので1.5KΩにしてある。初段はオリジナルは2N3954だが、ジャンクボックスを探ったところFD1840が出てきたのでFD1840にした。もともと同じものだから何の問題もない。ただし、FD1840は2N3954のIdssの小さい方(大体1.5mA程度?)での選別品だったように思うのでこの点注意は必要だ。が、No−170CDラインアンプの初段電流設定値は1mA程度なので、この場合は問題ない。

その他のトランジスタ類や電源バイパスコンデンサーも指定どおりである。耐圧の関係でC1400やV2Aを起用しようとしてもそれは無理なのだ。そもそもジャンク箱にももう入っていないようだし(^^;

ハイブリッドプリの場合、終段に真空管を起用しているものの、オフセット、ドリフトなどの動作安定性は半導体類が確保するので、真空管プリの救世主AOCは必要がない、ということだから、基盤製作はこの2枚で完了である。


通常のK式製作作法からすると、ここで電源を仮配線し、動作確認と粗調整をしてしまうのだが、今回はそうしない。基盤吊り下げ構造のケースに収めてからやった方が早いからである。そのための基盤吊り下げ構造だし、そもそもこの状態で仮配線、調整するにはヒーター配線がある分面倒だし背の高い真空管も邪魔でやや始末に困る。




50mmのサポーターで2本のアルミL型アングルを渡し、そのアングルに25mmのサポーターで基盤を吊り下げる。No−170において指定されたとおりの構造である。これでケース(タカチOS−88−20−33BX)の天板も底板も全くフリーなのでそれらを取り外して配線作業をする。

写真の正面奥の方にヒーターのレギュレーター回路が良く見えないが写っている。レギュレーター用ICは指定のLM338Kではなくかつての真空管プリで使われていたLM317Tにした。のは、5703のヒーター電流が200mA@1本なので、ハイブリッドCDラインアンプでは4本で800mAにしかならないので定格1.5AのLM317で十分だからである。ジャンク箱に転がっていたということもあるし、安いし、出力側に0.22uFを1個取り付けるだけで安定動作するのだからわざわざLM338にする必要はない。その取付は以前のK先生の作例のようにコツを要するものとはしないで、ただダイエイ電線で本体の足と基盤を繋いでいる。(^^;

入出力のモガミも含め配線は一挙にしてしまい、調整に入る。誤配線がないかどうかを良く確認していよいよ電源オンだが、先ずはヒーター用のコネクタのみ繋いでやってみる。

ここで間違っているようではいかんのだが、やはり最初の電源オンで緊張するのはいつもと同じだ。・・・結果4本の5703のヒーターがオレンジ色に光り出した。一応ヒーター用レギュレータの動作確認は事前に電圧設定の際にやってある訳だが、再度出力電圧を確認する。6.2Vだ。問題ない。ので、しばしこのままエージングを行う。これは電源の412Aのエージングも兼ねている訳で、丸1日くらいそのままほおって置いた。




いよいよB±電源コネクタも繋いで電源オンだ。電源オンと同時にヒーター電源インジケータのLEDが光るがB±電源インジケータのLEDは光らない。412Aが暖まるまで待つこと約30秒。整流作用が開始され、電源ケースとアンプケースのB±電源インジケータLEDも輝きはじめる。

問題はないようだ。

手早くテスターで出力電圧を測り、これが初段のトリマーで調整出来るか、そしてそれにより出力電圧オフセットを0Vに出来るかどうかを確認する。

幸いなことに、両チャンネルとも上手く調整出来た。これが出来るということは上手く動作していることの証左なのだ。No−170ハイブリッドCDラインアンプは取りあえず成功のようだ。(^^)

この状態でB±電源は、+113V、−112Vとなった。トランスの100V端子を使用した場合、これより20V以上の電圧アップが想定される。そうなるとD756、C1775の耐圧はちょっと厳しそうだ。やはりCDラインアンプ単体動作ではトランス85V端子の使用が吉のようだ。

続いて終段5703のアイドリング電流の調整だ。+電源ラインの5703のプレートへの配線を基盤上で一時取り外して、+電源ラインとプレート間に10Ωを繋いでその両端電圧を測ることにより電流を計算して調整するのだが、私の場合、当初の状態では両チャンネルとも8mAを超えるアイドリング電流となっていた。ちょっと多い。ので、2段目差動アンプの共通ソース抵抗を4.3KΩから4.7KΩに交換した。これで終段アイドリング電流は両チャンネルとも6mA台となった。

プレートへの配線を元に戻して、しばらく様子を見、再度オフセット調整を行う。ゲインコントロールボリュームを最大位置にして初段調整トリマーを微妙に動かして出力電圧を0Vに収める。上手く0Vに収まる。さらにしばしの間様子を見る。ボリューム最大位置ではオフセットがやや大きめになりやすいようにも思えたが、ボリュームの位置によって発振するという気配はない。良いんではないかい(^^)

となれば、さぁ、待望の音出しだ。




CDラインアンプであるから、音源は当然CDプレーヤーとなる。

先ずは安全のため電池式のヘッドフォン(専用)アンプを繋いで動作確認をする。まず無信号状態でハイブリッドCDラインアンプのボリュームを増減し、ハムの有無や発振等に伴う変な音がしないか確かめる。無音だ。この静寂さは半導体アンプと同等だ。が、さすがにボリューム最大ではかすかにサーという音が聞こえる。ブーンというハム音は皆無。真空管を叩くとそのまま音となって出てくるのをマイクロフォニックノイズというらしいので、ちょっと真空管を指ではじいてみたのだが、何も聞こえてこない。その他、動作に不審な挙動はない。問題はなさそうなので音を出してみると、何ごともなかったように音が出てきた。う〜ん、良さげだ。

ならば、と、いよいよパワーアンプに繋いでスピーカーで音出しをする。パワーアンプは144(改)と139(もどき)その2だ。

待望の音出し。

・・・・・・

おやおや(゜゜)

・・・・・・

う〜ん、良いのではないでしょうか(^^;

透明感、立体感が良く出て場の雰囲気がより手に取るように感じられる。分解能は半導体プリと同じという感じだが、音はより滑らかでコントラストも豊かでなんとも品が良い。結果、実在感が強まる感じで演奏に自然に引き込まれてしまう。

なんと。真空管といっても、電源の整流管と、アンプの終段の真空管だけではないか。それもCDラインアンプと銘打たれているが、実体はフラットアンプに過ぎない。CDプレーヤーはもとよりパワーアンプも半導体だ。要するに半導体の方が遥かに多い状態なのに、真空管によるフラットアンプを間に挟んだだけで何でこんなことになるのだ?

と、理屈は不明でその結果ははっきり言って非論理的なのだが、これならCDの音に不満もなくなるではないか。

・・・・・・

見ればCDラインアンプからオーラが出ている、・・・かのようだ。(爆)

もしや、電源とCDラインアンプの左側に輝く赤、青、緑、黄のLEDは、これらの光を自在に操ってあらゆる音楽と魂の色彩をくまなく表現しよう、という設計者の意図が込められているのではなかろうか。とまで思えるのであった。





こういうことであると、真空管CDラインアンプも早々に拵えてしまわないことにはすまないわなぁ。と、早速引き続いての製作に取りかかった。こういうのが真空管の麻薬性に溺れる兆候なのだろうか(^^;

ありがたいことには、世に真空管アンプを愛好される方が多いせいか、真空管アンプ用のパーツは容易に入手できるのだった。この白い基板用9ピンソケットも安価に入手できた。

というより、自作半導体アンプの世界に比べたら、自作真空管アンプの世界の方が遥かに広くて深いようである。ネットを検索してみると真空管についてはいにしえの真空管の規格も容易に入手出来るし、真空管アンプの製作を手がけられる方々のHPも枚挙にいとまがないほどで、当然集められる情報も豊富である。

というわけで需要があるから供給も途切れないのだろうかなぁ。いにしえの真空管も新たに生産されたりしている。いにしえのトランジスタの再生産などということはハナからあり得ない半導体の世界とはえらい違いだが、まあ、半導体は極限まで微細化して今この世のあらゆる分野に氾濫しているものだから、それはしょうもあるまい。
このソケット用の孔明け作業はあるものの、真空管プリアンプの回路自体が極めて洗練されたシンプルなものであるが故、基盤製作はハイブリッドプリ以上に簡単だ。乗っている部品類の数も少ない。

ススムも切れて一部ニッコームになっている。ニッコームはススムに比べて色が赤っぽい。実を言えばこの形のニッコームもかな〜りいにしえからあるものなのである。今を去ること○十年前に作ったアンプの残骸にこの赤っぽいニッコームが沢山載っている。いにしえに当地ではススムのプレートオーム抵抗が入手できず、代わりに当地でも入手できたニッコームを使ったのだ。

ちなみにニッコーム株式会社は青森県三沢市に本社がある。そのHPによれば創業は昭和41年だ。自分には何の関わりもないのだが、東北にあるというだけで親近感も湧くというものだ。(^^) ○十年を経てまたススムの代わりにニッコームを使うことになった。歴史は繰り返すのだなぁ・・・。 < 言ってろ(−−)


裏側ではヒーター配線とB±配線、そしてアース配線についてジャンパーがある。ダイエイ電線20芯をそのままジャンパー線に使った。

裏側に配置された入力のアッテネータのスケルトン抵抗であるが、指定の3.9KΩではなく1.5KΩにしてある。のは上のハイブリッドCDラインアンプの場合と同じ理由だ。

なお、No−166のCDラインアンプ基盤図とフラットアンプ基盤図、のみならず、単行本“オーディオDCアンプ製作のすべて 上巻”に登載の真空管プリアンプ(テレフンケン、WEとも)のフラットアンプ基盤図、CDラインアンプ基盤図とも、図左下にある初段定電流回路の30KΩ抵抗の向き指定が逆になっている。ので、向きを反対に挿してある。





さて、真空管プリアンプのフラットアンプにはAOC=オートマティックオフセットコントロール、自動オフセットコントロール回路を搭載する。

真空管にはWE420のような例外を除いて差動増幅用のデュアル真空管はなく、あるのは双3極管や双5極管といわれる単なる複合管だけということだ。DCアンプでは、半導体アンプで特性の良く揃ったデュアルFETや選別してペア組みしたFETを初段に持ってきても、オフセットやドリフトが時に問題になる。だから、差動用に作られたものではない双3極管等を初段に持ってきて差動アンプを組んだ場合には、当然オフセットやドリフトが問題になるだろう。しかも真空管は熱による膨張や収縮で真空管自体の特性が微妙に変わり、これもオフセットやドリフトの原因になるということで、漏れ聞くところでは、AOC搭載前の真空管DCアンプではこれがなかなかに大変な状況だったようである。

が、2001年12月号のNo−165“WE421AパラPPDCパワーアンプ”でお披露目された救世主、すなわちこのAOCがあれば、この問題から解放されるということなのである。AOC登場前から真空管DCプリアンプを製作されていた方からは革命的とまで評されるその効果、果たしてどれほどのものなのか。実に楽しみ。(^^)

AOCの心臓部はFETによる差動アンプだが、これには2SK97、2SK245、2SK1172SK170が指定されている。gm的には、2SK97、2SK117、2SK245、2SK170の順でgmが大きくなる。TetsuさんのHPでM−NAOさんと一致した見解としてここに用いるFETはgmが大きい方が吉と書かれてある。ので、迷うことなく2SK170を起用することにした。ちょうどジャンクボックスにあったものでIdss=9.5mAの2SK170BLが2ペア選別できた。

フィルターコンデンサーはどうしようか、と思ってまたジャンクボックスを探ったところ双信の丸形M2A2.2μFが2個出てきた。ので、これを使ってみよう。

M2Aを知っている方もかな〜りいにしえの方だが(^^;、V2Aの前にK式DCアンプに採用されたのはこのM2Aなのである。実はSEもV2AもこのM2Aも世に登場したのは同時期の1977年なのだ。MJ78年1月号に「最新オーディオ用コンデンサーの現状を探る」という特集記事があり、その中で双信電機(株)技術部の佐塚昭人氏がオーディオ用コンデンサーに対する考え方や双信の新しいオーディオ用コンデンサーを解説されている。

そこで紹介されているのがSEコンデンサーであり、ディップ・マイカ・コンデンサーであり、メタライズド・ポリエステル・コンデンサーであり、そしてメタライズド・ポリカーボネート・コンデンサーなのだが、V2Aとはすなわちこのメタライズド・ポリカーボネート・コンデンサーであり、M2Aとはメタライズド・ポリエステル・コンデンサーなのだ。M2AもV2Aも外見から分かるように構造は同じであり、違いは用いられた素材がポリエステルかポリカーボネートかということだが、その誘電率等が異なるので音にも違いが出たということだろうか。K先生は結局V2Aの方を選択された訳だが、私としてはM2Aでも良いように思える(^^;。ので迷うことなく採用だ。




ケースに取り付ける構造は、ハイブリッドCDラインアンプに全く同じだ。が、ラインアンプ基盤の取り付け穴を共用してアルミアングルの反対側にAOC基盤を取り付ける点が僅かな相違点である。

アルミアングルは、No−166では50mmのメタルサポートで取り付け、15mmのサポートでアンプ基盤を吊り下げる、となっているが、Tetsuさんご指摘のとおり、これではソケットの高さもあるために真空管の頭が天上につかえてしまうので、メタルサポートは40mmの間違いだったようであるが、案の定単行本の方では40mmに変更されている。

ので、当然40mmのメタルサポートと15mmのサポートを使用した。

AOC基盤はK先生のMCプリアンプの作例では後ろ側というか、ピンジャックが取り付けられている側に配置されているが、CDラインアンプでは基盤を中央に配置するので、ピンジャック側にすると電源関係のコネクタ類と混み合ってしまい嬉しくない。ので、反対の前側に配置した。

と、ここまでは良かったのだが、AOC基盤を12mmのメタルサポートで取り付けてみたところ、ありゃ、AOC基盤に取り付けたM2Aが天板につかえてしまうのだった。しまった。こいつはAUDYN CAPより大型で直径が20mmもあるんだった。これではつかえてしまうわなぁ(^^;

空間構想能力の欠如を自嘲しつつ、アルミアングル取り付け用のメタルサポートを35mmに変更したのだった。

ヒーター用のレギュレーターは、規格では396Aのヒーター電流が300mA@1本であり、5670も350mA@1本であることから、5670でも4本で1.4Aであるので、ぎりぎりではあるなぁとは思ったが、まぁ1.5Aだから大丈夫だろうということで、またジャンク箱に残っていたLM317Tを起用してしまった。

写真奥に見えるのがレギュレーター用基盤で、上の写真右側に見えるのは、LED用の抵抗&配線中継用基盤である。CDラインアンプは基盤数がMCプリアンプの半分以下でケース内に余裕があるので、中継用基盤もメイン基盤同様、贅沢にもにこんなところに取付が可能なのだ。

ハイブリッドCDラインアンプと同様に、これも一気に配線を済ませてから動作確認と調整を行った。もちろんその前に初段定電流回路の2.7KΩにシリーズの抵抗の所は指定どおりジャンパー線を配線しておく。

こういうことではいけないのだが、各部の配線も確認して見ため問題なしに自信なしとしないので、問題なかろうということで、ヒーター電源コネクタもB±電源コネクタも繋いで、さぁいくぞ!! と一発で電源オンとしたのであった。良い子はしてはいけません(^^;

ヒーターが点灯した後、B±電源が立ち上がるのを待って出力オフセットの調整をする。

まず左チャンネル。出力の100Ωスケルトン抵抗の出力側にテスター棒を当て、AOCのトリマーを調整すると、おぉ!、ガクン、ガクン、という感じでオフセットが調整できて、ちゃんと0Vに調整できたぞ。上手くいったようだ。

ちなみにテスターの針がガクン、ガクンという感じで動くのは、AOC入力のCRフィルターの時定数が0.数秒であるからだろう。オフセット電圧の変化がAOCの差動アンプ入力に伝達されるのにやや時間を要するためにこうなるのだ。だからアナログテスターで調整した場合、このようにガクン、ガクンという感じで調整できれば、これは成功の証だ。では、デジタルテスターの場合はどうなるのか? 持ってないので知りまっせん。(^^;

さて、次は右チャンネルの調整だ。と、こちらも100Ωスケルトン抵抗の出力側にテスター棒を当てる。あれ、最初から0Vだ。えっ?
実は、こういうのは怪しいのだ。案の定AOCのトリマーを回転させてもテスターの針はピクリともしない。あれ何でだ?と思ってよく見ると、何と差動側の5670が光っていないではないか。ひぇ〜、と背筋が凍る。これはいけないので早速電源を切って配線の点検だ。

が、どこにも間違いはない。と思うのだが、ヒーター電源コネクタだけ繋いで再度ヒーター電源を供給しても何故か同じ1本だけが点灯しない。切れたのか?と思って引き抜いてヒーターの導通をテスターでチェックしてみると導通はある。が、再度取り付けてもやはり点灯しない。しょうがないなぁ、と思って別の5670を取り出して取り付けてみたがやはり点灯しない。真空管を引き抜いてソケットの1番9番間の電圧をテスターで測るとちゃんと6.2Vと出るではないか。え〜、なんだこれ??????

と、しばし配線チェック等をしたものの全く原因不明で悩んだのだった。

しばしジタバタしたのだったが、ふとヒーターレギュレーター基盤の部品配置面を見たら、電圧調整用抵抗が1本何故か横に倒れていたので、これを立ててみた。そのあと、真空管を全部抜いて、まず点灯しなかった右チャンネルの差動用の真空管のみを取り付けてヒーター電源を供給したら、おお〜〜点灯した。さらに1本挿してみると2本とも点灯した。おっ!じゃあ、と思って4本全部挿して試して見たところ皆無事に点灯したのである。(??)

何とも原因不明なヒーター電源ミステリーだったが、以降は全く再現しない。一体これは何だったんだろう? なんらかの原因で317Tの電流制限機能でも働いたのだろうか? さっぱり分からない。

もしや、LM317TをK先生指定のようにコツを要する取り付け方をしないで、右のような素人配線をしたためにバチが当たったのかもしれないなぁ。が、怪我の功名、これで図らずもB±電源が供給されている際に差動側の真空管がダウンしても出力電位は0Vに保たれるということは実証されたのだった。(爆)

さて、トラブルの原因は不明だが、めでたく復旧したのでこれで右チャンネルのオフセット調整も行い、これも旨く調整出来た。ので、次は終段のアイドリング電流の調整だ。これは2.7KΩにシリーズの抵抗が左チャンネルが43Ω、右チャンネルが30Ωでアイドリング電流5mA程度の調整結果となった。少な目にしたのは電源電圧が113V程度と低めだからである。3極管であるからプレート電圧が上がればプレート電流も増える。電圧が高い電源を使う場合のことを考えたのである。

なお、この調整の過程で、真空管プリの場合もアイドリング電流はアンプが暖まる程に増えるものであることが分かった。電源オンから数分掛かって1mA〜2mA程度は増加してアイドリング電流は安定になるようである。ので、安定時に5mA程度になるように設定したのである。


さて、真空管の初心者として悩んだのはヒーターの処理である。ヒーターカソード間耐圧というのも初めての概念だが、やや勉強した限りではヒーターについては通常その一方をアースするもののようである。そうしないとハムの原因になったりするらしい。が、SRPPやSEPP回路で真空管を使用する場合、そのカソード電位はアース電位からかなり外れてしまい、そのヒーターをアースするとヒーターカソード間電圧がその耐圧を超えるものとなってしまう場合がある。ので、その場合、同じヒーター電源を共用する真空管のカソード電位の状況を総合的に評価して、それら真空管の全てのヒーターカソード間電圧が耐圧内電圧に収まるようにヒーターの電位をアース電位からみて適切な電位に設定するという手法が採られる。このことを称してヒーターバイアスをかけると言うらしいのだ。

なるほどハイブリッドプリアンプの場合は、ツェナーダイオードを使用してヒーター電位が−45V程度に設定されている。これがヒーターバイアスだ。B±電源の絶対値を122Vとして、終段下側のカソード電位は概算で122−6=116V程度だから、このままでヒーターをアースするとヒーターカソード間電圧が116Vと5703の耐圧100Vを超えてしまう。−45Vのヒーターバイアスをかければ116−45=71Vと耐圧内で安全ということになる訳だ。

終段上側はどうか。上側のカソード電位は一定ではなく出力電位+6V程度で動くのだが、出力の最大電圧は±50Vだから、そのヒーターカソード間電圧は、50+6+45=101V、−50+6+45=1Vであるから、最小1Vから最大101Vまで変動することになる。最大出力時には耐圧の100Vをちょっと超えてしまうのだが、通常の使用でプリアンプの出力は数V程度でも大きいぐらいであるから、こういう状況なることは普通は考えられず、むしろ通常使用時には6+45=51V程度と、なるほど上下の5703のヒーターカソード間電圧が旨い具合になるようにヒーターバイアス電圧が設定されている訳だ。

では、真空管プリアンプの場合はどうだろうか。これがWEタイプの場合についてK先生の明示の指示がないのである。新単行本を見ると、テレフンケンタイプの場合は基盤図でヒーターをアースすることが明示されていて処理法は明らかなのだが、WEタイプの方には何故か明示がない。かといってヒーターバイアスもかけていない。ということは、ヒーターは浮いたままなのだろうか?

が、Tetsuさんご指摘のように、K先生の作例の写真をよお〜く見ると、レギュレーター基盤から各基盤に渡り配線で繋がれているヒーターの0Vラインは、最終的に反対側の100Vレギュレーターのところでアースに接続されているように見えるのである。ふ〜む。真空管のヒーターはアースするのが常識だからわざわざ断るまでもない、ということなのだろうかなぁ・・・。M−NAOさんに「新単行本のモノーラルDCプリアンプの章をよく読め」と指摘されたのでよくよく見てみたら、なるほど「ヒーターハムを軽減するために、ヒーターの片側は通常アースして使用する。」と書かれてあるし・・・。

が、そうすると終段上側の真空管は問題ないが、下側の真空管のヒーターカソード間電圧は122−33=89Vと396Aや5670の規格上の耐圧90Vに限りなく近くなってしまう。トランスの100V出力を使用してCDラインアンプのみを動作させた場合はB±電源電圧の絶対値は122Vを超えることが予想されるから、この場合には下側のヒーターカソード間電圧は90Vを超えてしまうだろう。M−NAOさんのお話では、「一般的な球の設計では、SEPP SRPP カスコード等では、H-K耐圧がぎりぎりでは、ノイズの発生の原因となるので、必ずヒーターバイアスをして耐圧マージンを稼ぐべしと言われています。」ということだ。そうすると、この場合はヒーターカソード間耐圧がぎりぎりだから、ハムを軽減するためにヒーターアースすると、それがノイズの原因になってしまうということになる。はたしてそれで良いのだろうか?

と、疑問を残しながら、先ずはヒーター回路を浮かしたままで製作し、様子を見ることにした。K先生の作例でも、信号レベルの高いパワーアンプではヒーターをアースしなくともハムは出ないと説明されている。ものもあるし、とおるさんもこうしているということだし。ただ、この場合にはヒーターとカソード間の電気的相互関係はどうなってしまうのだろうか?、耐圧の問題もなくなるのだろうか?、静電気状態なのかなぁ・・・などと、何となく気味が悪い感じはするのだが、電源の整流管はそもそもこういう状態だし、真空管素人としては耐圧ぎりぎりよりは気味が良い感じがするのであった。

う〜ん。分からん。


と言うわけで、暫時エージングを行い、No−166真空管CDラインアンプもいよいよ音出しの段階にこぎ着けた。

先ずは安全のため電池式のヘッドフォン(専用)アンプを繋いで動作確認をする。のは同じ。
まず無信号状態でハイブリッドCDラインアンプのボリュームを増減し、ハムの有無や発振等に伴う変な音がしないか確かめる。

無音。ではないなぁ、こちらは。(^^;

ヘッドフォンで耳間近に聴いているというためでもあるのだが、ボリューム最小でもサーという音とブーンというハム音が両方微かに聞こえる。当然ボリュームを上げればそれらも大きくなる。だけでなく、ガサガサゴソゴソといった感じのノイズもボリューム最大位置付近では聞こえてくる。さらにマイクロフォニックノイズというのだろうか、真空管を指で弾けばガラスを弾いたそのものの音も聞こえてくる。半導体アンプやハイブリッドCDラインアンプに比較すると随分ノイズが多い。のだが、十分実用的だ。音が出てしまえば何の問題もないレベルだ。ノイズについてはそんな感じで、全然完璧というわけではない。これが浮かせたままのヒーター回路の処理によるものなのか、真空管そのものに起因するものなのかは不明なのだが、取りあえずそんなもので、発振等の兆候はなくその他の動作自体には不審な点はないようだ。

ので、出力先をパワーアンプに換え、スピーカに繋いでさっそく音出しをしたのであった。

・・・・・・

(°°)ふ〜む。 

・・・・・・

やはり真空管CDラインアンプからもオーラが出ていますねぇ(爆) →
しかもハイブリッドCDラインアンプよりもオーラは強そう・・・

なんなんだろう、この感じ。必要なものはしっかり出ている。特にこいつは実に芯が強い低域のしっかり感が特徴的だ。そして余分なものは微塵も感じられないようなスッキリ感、透明感。強靱かつ美しく、正に空の間に像が実体的に浮かび上がる。ピントがピッタリと合った感じ。

ハイブリッドCDラインアンプでもそういう感じがあったのだが、この実体感度の向上はCDを聴くにはとても喜ばしい。別にCDの音がピントの合わない分解能の悪い音というわけではない。解像度などとても良いのだが、どうしてもどこか片目をつぶって見ているような虚像感を感じることがあるのである。それがこのCDラインアンプを通すと、正に両目を開けて見ている、といった感じになるのだ。三次元的ピントがピッタリと合う感じと言ったら良いだろうか。そして、そのためか、とても深みがあって滑らかで豊かなのだ。しかも、逆に空間は静寂さと透明感を増し余計な雑味感がない。聞こえない範囲でのノイズは半導体やハイブリッドプリに比べたら遥かに大きいものがあるにもかかわらず、その静寂感はとても素晴らしいのである。

これはどうにも電波チックな結果と言う以外にないだろう。オール真空管にしてみたというのであればわからぬこともないが、CDPの出力に1本や2本の真空管を使ったラインアンプを挟んだぐらいでこんな音になる訳はないではないか。大体大して違わないことも文章にしまうと大袈裟になってしまうのだ。これを読んだ人も信じない方が良いように思いますなぁ。(^^;

が、とても高貴で典雅で。
演奏に込められた心の襞が蘇るのでした。(^^)



と、快調に鳴り出した真空管CDラインアンプなのであるが、ある日パワーアンプの保護回路が作動したのであった。え、何で? とラインアンプ出力にテスターを当ててみる。15mV程のオフセットになっている。確かに多めではあるが別に保護回路が動作する電圧ではあるまい。もしや発振でもしたのか?そうだとするとやばいなぁ。などと瞬間思考回路が回転した。

確かに我が真空管CDラインアンプ。5670Wは最初にたまたま選んだものがそのまま刺さっていて、選別していないということもあるのだろうか、AOCが利いていてもいつも上手い具合に10mV以内のオフセットには収まってくれない感じなのである。調整してオフセットを0mVに収めた際にはその後のドリフトでもオフセットは5mVも変動しないようなのだが、翌日にオフセットを測ってみると20mVの近くのオフセットになっていたりするのである。なので、またオフセットの調整をする。実はこういうことを繰り返していたのである。

要するに一度電源を落として真空管が冷えてから再度電源を投入するとオフセットがずれてしまうのだ。これはどうも真空管が熱で収縮するが故に生じる現象のようで、K先生もそのようなことをどこかでおっしゃっていたように思うし、いずれエージングが進むにつれて安定するようになるから、愛情を持って育てる気持ちで真空管に接することが大事だ、ともおっしゃっておられたように思う。

そういうことであるし、まあ15mV程度のオフセットなら許容範囲にしても良いのではないかなぁ、と思っていたのだが、保護回路が働いてはたと思い出してしまった。そうだ15mVもオフセットが生じては駄目なんだ。我が完全対称型パワーアンプ群は旧世代だから。

旧世代とは勿論2段目差動アンプに電圧ゲインを有するタイプということである。だから、NFB安定性の確保や音質的理由からそのクローズドゲイン設定は32db=40倍なのである。最近の新世代完全対称型はこれが20db=10倍であるから、プリ出力にたとえ50mVのオフセットが生じてもパワーアンプの保護回路は働かないが、我が現有完全対称型パワーアンプは旧世代だから、プリアンプ出力に15mVのオフセットがあると、15×40=600mVのDC電圧がパワーアンプ出力に生じてしまい、結果当然にDC漏れの保護回路が働いてしまうのだ。

そうか・・・。とすると今のオフセットの状況はちょっとまずい。ということになる。ので、愛情に欠け、せっかちな主人は、真空管の成長を待つことが出来ず、AOCをもっと利きの良いものにすることにしたのだった。(^^;

それは即ちAOCの差動アンプに用いるFETをもっとgmの大きいものにすることだ。Tetsuさんも2SK146(147のデュアルタイプ)を起用して好結果を得られているようであるし、化美音曲さんのClassBプロジェクトパワーアンプのAOCにも2SK147が起用されている。仕掛け人はあのM−NAOさんのようだが、私もこの際これに乗りましょう。と

だが、問題は2SK146も2SK147もない。ということだ。(爆)
とっくの昔にディスコンだから今となっては入手はほぼ不可能だ。困った、困った。

が、実は全く困っていないのである。(^^;
FET gm(mS)
(Id=1mA)
2SK30ATM 1.5
2SK246 1.8
2SK58 3
2SK97 8
2SK117 9
2SK245 10
2SK170 15
2SK369 20

2SK146(147)はなくとも2SK369という現行品があるのだ。その規格を見ると、これは2SK147が名前を変えて出てきたもの
、即ちチップは同じものとしか思えないのだ。TO−92というK30と同じ小さいパッケージに変身したために許容損失が600mWから400mWに減少した点だけが違いだ。と、勝手に解釈しているのだが違うだろうかなぁ。東芝な方、真相を教えて下さいませ(^^;

というわけで、早速FETを2SK170BLから2SK369GRに交換してみた。手持ちにはGRランクしかなかったが、Idss=8.5mAと9.3mAのペアが上手くとれた。結果は、・・・大成功
\(^○^)/ オフセットの変動は成長途上の5670Wであるのに5mV以内に収まっている。もう電源を入れるたびにオフセットを監視し調整しなくても大丈夫のようだ。しかも、ボリュームを最大位置に動かしてもこのオフセット電圧は殆ど増加しないのだから、全くAOCとは素晴らしい。目出度し、目出度し。(^^)

なお、Tetsuさんによると、このようにgmの巨大なFETの場合は寄生発振に注意。ということなのでK369が発熱しないかしばしの間チェックしてみたのだが、幸い大丈夫のようだ。指が鈍感なのかもしれないが、ゲートに抵抗を入れる対策は講じないでこれで良しとしてしまっている。

何事にも先達はあらま欲しきものなり。多謝m(__)m






真空管CDラインアンプのオフセットが、このようにAOCの絶大な効果で非常に小さくかつ安定なものになるのを見るにつけ、一転して、ハイブリッドCDラインアンプの出力オフセットの挙動が気になってくるのだった。

こちらにはAOCは付いていない。したがって当然であるのだが、出力のオフセット電圧はボリュームを大きく回すほどにAカーブだから加速度がついて大きくなる。クローズドゲインが大きくなるに比例してオフセット電圧も大きくなるのは理屈というものなのだが、ボリューム最大位置において出力オフセットを0Vに調整してしまえば、安定度の良い半導体プリアンプではその後のドリフトを含めてもオフセット電圧は余裕で許容範囲に収まる。というのが公式見解だ。

が、我が半導体完全対称型プリアンプ達の状況をみても、ボリューム最大位置でオフセットを0Vに調整した直後はオフセットが0Vに安定するのだが、残念ながらその後に温度ドリフトしてしまうと、ボリューム最大位置ではこれが拡大されて、数mVから数十mVのオフセットになってしまうという現実も報告しなければならない。この辺は、初段差動アンプのペア組の出来如何という感じでもあるので、こういう状況を公表するのは自分の製作技術の未熟さを晒すことになって、あまり明らかにはしたくないのだが(^^;、この際なので恥を忍んで告白しよう。恥かきついでに明らかにすれば、季節の変わり目などに久しぶりにオフセットの状況を確認してみると、ボリューム最大位置ではオフセットが50mVを超えてしまっていて、あわてて調整をし直す、という現実があったりすることも事実なのだ。

が、実用上はこれでも不具合は生じないのである。なぜなら、現実にプリアンプを使用する場合、音量的にボリューム最大付近で使うことなどないからである。我が家の環境では、プリアンプのボリュームを半分も回してしまったら近所から村八分となり、ヤツに口を聞いてもらえなくなるだろう(爆)。我がNo−168MCプリアンプのボリュームを20KΩにしたのは、音量的に50KΩは必要ないという理由のほかに、ボリューム最大位置でオフセットが大きく出てしまうという現実をあまり見たくない、という意味もあるのだ。

実は、今回のハイブリッドCDラインアンプのオフセットの状況も基本的にこれに同様のようなのである。のみならず、真空管を終段に起用したが故と思われる事態も併せて生じるようなのだ。というのは、一度調整したオフセットも、電源を切って再度動作させた際にずれてしまうという状況が発生するのである。これは真空管CDラインアンプと全く同じ現象だ。しかもこちらにはAOCがないので、オフセットがずれてしまうとボリューム最大位置ではこれが拡大されて、何と100mV近くのオフセット電圧になったりするのである。

このような状態でも、再度オフセットを0Vに調整すれば、その後長期に動作を継続してもボリューム最大位置でのドリフトによるオフセット電圧変動は5mV以下に収まっている。のは、そもそも初段にFD1840という精度の高いデュアルFETを起用しているのだからであろう。したがって、一度電源を切ってのちに電源を再投入した際にオフセットがずれるという問題は、終段の真空管に原因があるとしか考えられない。熱による電極の膨張収縮による微妙な特性の変化がオフセットのずれを生じさせ、AOCがないためにこれがボリューム最大位置ではかなり大きなものとなってしまうのだ。しろうと考えだが(^^;

初段に2N3954を起用したのは真空管の熱によるドリフトを最小限に抑えるため、とK先生はNo−170で説明されているが、これはそもそも終段に真空管を用いていること自体に原因があるのではないかなぁ、と思えるのだが、こうしてみるとK先生もハイブリッドプリアンプではフラットアンプのオフセットの大きさに多少難儀されたのではないかしらん。2N3954起用はその証拠。などと邪推するのであった。

という事の当否はどうでも良いのだが、一度0Vに調整したオフセットが再度電源を投入した際にはボリューム最大位置で数十mVになってしまう現実は、真空管CDラインアンプの素晴らしいオフセット安定性を前にしては、はなはだ気になる現象になってきたのである。

どうしようか・・・

ということで、愛情に欠けせっかちな主人は、またしてもやってしまったのだった。
ジャンク箱からありあわせの部品をみつくろって、ハイブリッドCDラインアンプ用のAOCを拵えてしまったのである。アハッ(^^;



それが右のAOCだ。回路はこう。

入力フィルターの抵抗は750KΩがなかったので680KΩにした。これでもカットオフ周波数は十分に低いのでOKだろう。コンデンサーにはまたしてもM2A2.2uFが2個出てきたのでこれを使った。心臓部の差動アンプ用FETには2SK170だ。こちらの場合、gm的にそんなに大きいものは必要ないだろうとは思ったが、真空管CDラインアンプで2SK369と交代した2SK170BLが余っている。資源を無駄にしてはいけない。

定電流回路のTRが2SC1775Aなのは単に2SD756が切れていたから。このため、損失をC1775Aではなく抵抗に食わせる回路にしてある。耐圧的にも安全な方法だ。あとのツェナーダイオードや抵抗類は手持ちから適当に組み合わせてあるが、定電流回路の動作電流の設定は勿論意識的なもの。

さて、問題はAOC回路をハイブリッドCDラインアンプ本体に接続する方法だ。ハイブリッドCDラインアンプの2段目は電流帰還用のソース抵抗のない普通の差動アンプである。したがって2段目にAOCのX−Yを繋ぐポイントはない。

が、AOCの動作原理を考えれば、X−Yを繋ぐポイントは別にある。ということが分かるのだ。

拙い説明をすれば、AOCとは要するに2段目のFET又はTRのバイアス調整装置だ。FETやTRのバイアスは、そのゲート・ソース(ベース・エミッタ)間に与えられるものであるから、そのバイアスを調整しようとする場合、それは、ゲート(ベース)側を固定してソース(エミッタ)側電圧を動かすことによっても出来るし、逆にソース(エミッタ)側を固定してゲート(ベース)側電圧を動かすことによっても出来るのである。

K先生が発表されたこれまでのAOCは全て前者の方式で、2段目のソース(エミッタ)抵抗にAOCの直流電流を重複することによりこの抵抗に発生する電圧を可変してソース(エミッタ)側からバイアス電圧を調整し、オフセットをコントロールしているのである。であれば、後者の方法でも全く同様の効果は得られるはずで、AOC回路のX−Yを初段の負荷抵抗の2段目ゲート(ベース)側に繋げば、AOCの直流電流を初段負荷抵抗に重複することによってこの抵抗に発生する電圧を可変してゲート(ベース)側からバイアス電圧を調整し、結果オフセットを同様にコントロールすることができるのである。ただし、バイアス増減の効果がソース(エミッタ)側とは反対になるので、X−Yの接続は逆にすることが必要である。これについては別に新発見ではなく、すでに化美音曲さんのClassBプロジェクトパワーアンプに例があるし、M−NAOさんも指摘されている事実である。

両者間にコントロール能力の違いはないのか?というと本来的にはない。のだが、実際はgm×RD(負荷抵抗値)が増幅率(=オフセット調整能力の大きさ)になるので、初段の負荷抵抗値、2段目電流帰還抵抗値(差動アンプの場合)またはソースorエミッタ抵抗値(カレントミラーの場合)の大きさがそのまま調整能力の大きさに反映される。例えば、今回の真空管CDラインアンプでは初段の負荷抵抗の方が2段目エミッタ抵抗より2倍以上大きいから、X−Yを逆にして初段の負荷抵抗側にAOCのX−Yを繋ぐとAOCの効果は2倍以上大きくなるはずだ。

ただ、真空管ラインアンプは初段が三極管であり、プレート電圧の変動はプレート電流の変動を招くので、その意味では初段の負荷抵抗側でAOC調整をするのは妥当でないのかもしれない。が、ハイブリッドCDラインアンプの場合は初段は5極管特性のFETであり、さらにカスコードアンプまで付加され、B+電圧側の多少の電圧変動が初段の動作に影響を与える危惧は全くない。

よって、ハイブリッドCDラインアンプのAOCは、初段負荷抵抗とAOC基盤を右のように接続することによって問題なく実現するのだ。

また、この場合、AOCでのオフセット調整はアンプ初段差動アンプのソース側のトリマーで実施すれば良いので、AOC本体側にはトリマーが不要になる。

ただし、初段の負荷抵抗にAOCのコントロール用直流電流が重複されることにより、負荷抵抗に生じる電圧降下が大きくなりその分2段目のゲート電位が下がるので、2段目の動作点をこれに合わせて変更しないと、2段目のバイアスが過剰になって終段真空管にとんでもないアイドリング電流が流れてしまう。したがって、そうならないように2段目の共通ソース抵抗を大きくしてソース電位も同様に下げることが必要だ。

また、そうすると2段目FETのソースドレイン間電圧がその分小さくなってしまうので、これを見込んで2段目カスコードアンプのベース電位を規定しているツェナーダイオードはその分ツェナー電圧の大きいものに交換することが必要となる。

この場合、2段目差動アンプの共通ソース抵抗値は計算で概算値を求め、最初安全のために大きめの値のものを入れて終段アイドリング電流を実測しながら、現物合わせでアイドリング電流が適正な値になる抵抗値に持っていくという作業になる。あるいは10KΩのボリュームを入れて適正アイドリング電流に調整し、その時のボリュームの抵抗値を測定してそれに近い抵抗値の固定抵抗に入れ替えるという方が簡単かな。

このような変更は必要だが、これでハイブリッドCDラインアンプそのものの増幅動作には何の影響もないし、そのオープンゲインもカットオフ周波数も全く変わるところはない。

と、考えて早速実装したのであるが、結果は、・・・大成功\(^○^)/

そのオフセット電圧は、1度0Vに調整してしまうと以降は0Vに張り付いたままで、ボリューム位置をどこに動かそうともピクとも変動しない。もちろん再起動しても同様となったのである。

AOCを付加したハイブリッドCDラインアンプのVoはAnfに関係なく0Vになる。と言ってしまうと、厳密には違うだろ!、ということになるので、±1mV以内になる。と言っておきましょう。(^^)

そもそも、もともとのオフセットは真空管CDラインアンプに比較すれば遥かに少ないものと思われるし、この場合AOC回路の差動アンプにはトリマーが不要なのでAOC用FETのgmがその電流帰還作用で低下することがなく、大きなgmのまま動作していることもその理由だろう。新単行本P122にデータがあるとおり、AOC側の差動アンプに200Ωの調整用トリマーを入れるとFETの実効gmは半分になってしまうのだ。だから、2SK369を採用した我が真空管CDラインアンプのAOCも実効gmは10mSなのである。これに対してAOC側に調整用トリマーのないこちらのAOCの実効gmは15mSのままであり、しかもその負荷は3.3KΩと真空管CDラインアンプの2.4KΩより大きいのだ。つまり、こちらのAOCの方が実は結果的に強力なものになっているのだ。

Tetsuさんが以前当HPの掲示板で、「初段のアンバランスを、AOCのバランスを崩すことで打ち消すよりは、もともとバランスの取れているAOCが介入した状態で、初段のバランスがとれるように調整するほうが自然」であるし、「AOCのゲインも犠牲にならない」と指摘されていたのだが、そのとおりということだろう。

なお、ケース内に直径20mmのM2Aコンデンサーを使ったAOL基盤を真空管CDラインアンプと同様に収めた関係上、アルミのL字アングルの取り付け用サポートは35mm、基盤吊り下げ用サポートは15mmと、これまた真空管CDラインアンプと同様な内部構造となったのである。

さて、さて。ここまで効果的なAOCなら、半導体プリにも導入してしまおうかしらん♪ とまで思ってしまいますね。(^^)





さて、ハイブリッドCDラインアンプと真空管CDラインアンプでのエキサイティングな未知との遭遇は今も継続中なのだが、取りあえずここまでにしよう。(^^)

今も日々成長している真空管。今後、時間を経るにしたがってどう変わっていくのか実に楽しみである。それにしても、ELECTRON TUBE。なかなかに魅力的だ。はっきり言って異文化だが、半導体に鎖国状態であった自分も、これはどうも本気で開国せにゃぁならんかなぁ(^^; と感じているのである。

あからさまな半導体、魅力的なオーラを発する真空管、混血が時に絶世の美女を生み出すが如くに素晴らしくヒュージョンするハイブリッド。

何と、知らぬ間にK式の世界はこんなにも幅広い魅力的なものとなっていたのですねぇ・・・。
それぞれにみな素晴らしいのですが、ああ、K先生ではないけれど「やはりこれらの良さを全て欲しい」 な〜んて(^^;


「その言葉は君には10年早かろうて・・・」 はっ m(__)m





なんと、今年は夏の来ぬまま立秋を迎えてしまうのだろうかなぁ・・・
当地未だ梅雨が明けず・・・(嘆)

と、嘆いたら今日明けたとか(^^;

(2003年8月2日)